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ニーベルはアバロンを出てそのまま南下、南バレンヌの丁度中間あたりに位置する。
かつて全盛期を誇った帝国の勢力も、続く争乱で次第に弱まり、現在は南バレンヌに及んではいない。
いかに元帝国領とはいえ、即位して間もないジェラールを見て、すぐに皇帝だと看破する者は少ないだろう。
「陛下。なぜわざわざご自身で視察を?我々にお任せいただければ陛下のお手をわずらわせずとも、ご報告差し上げますものを。」
ジェイムズは兵士の派遣で事足りるものをなぜジェラールが自ら足を運んでいるのか腑に落ちなかった。
先代のレオンもそうであったが、彼ら皇帝はどうも自分でなんでもやり過ぎる傾向にある。
ジェラールは特にそれが強いように思えた。
そんな所にジェイムズは、一抹の不安を抱えていたのだった。
「ジェイムズ。それも手ではあるが、兵士の派遣となると少々大掛かりになる。調査隊や戦闘部隊、斥候に連絡兵などの中隊をここに差し向ける事になる。突然そんなものに踏みいられては、ここの住民の不安を煽る事になるだろう。帝国が戦争でも始めるのか…とな。」
ジェイムズはその話を聞いて納得した様子だった。
「百聞は一見にしかず、とも言うしな。それに地域の統一と平和の実現は父上の悲願とする所だった。私の手で叶えてやりたいのだ。」
「そこまでお考えでしたか…いらぬ口をはさみました。申し訳ございません。」
真面目な話をしているジェイムズにベアが目を付け、からかおうと近寄ってきた。
ベアはジェイムズの背後から近付き、太い腕を肩を組むようにジェイムズの首にまわし、がっしりと掴んだ。
「よう。ジェイムズ。そうあんまり難しいこと言うなって!ハゲるぞ?」
「なっ…ベア!大切な話をしていたのだ!貴様などに…それに私はハゲてなどいない!」
ムキなってベアに掴みかかろうとするジェイムズを巧みにいなしながら、ベアはジェラールに提案する。
「ジェラール様。情報収集の基本は人が集まる酒場です。どうですか?今夜一杯やりながら。」
「ベア!貴様、陛下に酒を勧めるなど!陛下は貴様のような下品な輩とは違うのだ!」
ジェイムズはさらにムキになる。
しかし、ジェラールは彼ら兵士に比べて世間の常には疎い。
ここはそういった事に明るいベアの案に乗るのが最善だろうと判断した。
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