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ジェラールは町娘に連れられるまま、半ば引きずられるような形で町の中を右往左往していた。
しかし、知らぬ土地で地元の案内が得られるというのはありがたいものだった。
こんな状況ですらなければ…
「ホラ!旅人さん。そこに見えるのが龍の穴よ!」
町娘が指差す方角には一際大きな岩山がある。
「あそこが格闘家達の修行場なの。リーダーのカール様みたいになりたいって、たくさんの格闘家が修行しに来てるわ!」
格闘家はどうやら1人ではないらしい。
帝国どころの話ではないようだ。
「そうか。それではこの町は安全なのだな。」
「…」
先程まで元気一杯だった町娘の表情が急にくもる。
「どうした?」
「実はね…最近、町の近くにモンスターの巣ができちゃって…格闘家が退治しに行ったんだけど、苦戦してるの…」
「そのモンスターはそんなに強いのか?」
町娘は首を横に振る。
「そんなことないの!格闘家はすごく強いの!でもモンスターは格闘家の体術が効かないんだって…」
「それは…一大事じゃないか。」
「うん、最近は帝国の方が頼りだなんて言われてるの。帝国兵に応援を頼もうかって。でもそんなことしたら今まで町を守ってくれた格闘家のメンツが潰れちゃう。格闘家より帝国の方がすごいんだってなっちゃう…。修行に来る格闘家も減って、いつかここを守ってくれる人も…」
ジェラールは一瞬ギクリとする。
この状況で自分が皇帝だとバレた日には大変だ。
だが、これは帝国の出番かもしれない。
しかし大隊を差し向けてモンスターを蹂躙すれば良いという簡単な問題でもないようだ。
幸い、今なら自分と数人の兵士しかいない。
格闘家をサポートして協力しつつモンスターを倒す事も可能だろう。
「大丈夫だ。龍の穴の格闘家は無敵なんだろう?彼らを信じるんだ。それが彼らの戦う力にもなろう。」
「旅人さん…そう…そうよね!私どうかしてたわ!あはは!」
町娘は元気を取り戻したようだった。
ジェラールはホッとした気持ちになる。
格闘家のサポートが当面の行動になりそうだ。
「さ、旅人さん!デートを続けましょ!私行きたいお店があるの!あっ、美味しいケーキもあるのよ!」
「なっ!まだどこか行くのか!」
「もちろん!日も高いし、まだまだ楽しみましょ!」
これで終わりじゃないのか?
ジェラールは再び町娘に引きずられて町へ消えて行った。
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