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目には目を。
歯には歯を。
ストーカーには、ストーカーを。
あの男が毎日煙草を吸うように、私も毎日のようにコーヒーを作る。
何故だか触れる物があったからだ。
未練、というやつなのだろうか。
将来の夢だったバリスタになる事はもう叶わないが、コーヒーを作れる事だけが今の私にとっては唯一の救いだった。
それが毎日の日常の一つとなっていった。
────そして、瀬波勇次が捕まると分かったあの日、私の視界は突入歪み始めた。
私は消えてしまうのかと悟り、最後にトドメをさすような言葉でも言ってやろうかしらと余裕も出るくらいになっていた。
幽霊になってからすこぶる耳が良くなった気がする。
5、6人の足音がこの家に近付いて来るのが分かる。
「長かったなぁ……ホント」
あぁ……やっとこの時が来た。
5年という月日は長かった……。
17歳の私は……これからも17歳のままで、時が止まったまま2度と時を刻む事も進む事さえも出来ない。
この男はこれからも生き続けれるのに、私は生きられない。
この世は理不尽な事ばかりだ──
そう思うと、泣きそうだった。
だけど、扉を叩かれた音によって私は泣かなかった。
私は、この男に罪を償って貰いたい。
今、何度私に泣きながら土下座をされて謝って貰っても、私は死んでしまったのだから。
死んでも生き返れるゲームの中の世界とは訳が違う。
一度しか生きる事のできない人の命。
人一人の尊い命を奪う事は、同じ人を作り直せないほどの重い、重い罪なのだ。
私は、警察が突入したのを見届けると同時に消えた。
あとは、私の仕事ではないから……。
ここからは、警察の仕事。
私と同じ様な悲しみが、一つでも無くなりますようにと願う──
──だから……
コーヒーと煙草、時々、煙。
被害者と犯人を繋ぐ一つの線が今結び、そして煙のように次の時代へと過ぎ去る事だろう。
──だから……
早く私の家族が待つ家に連れて帰って欲しい……
この部屋のソファーに……
煙草の煙を被り続け置かれてしまったままの……
私が無くしてしまった……
奪われてしまったもうひとつ……
残りの遺体の一部を…………
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