第苦章

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5つ目になる砂糖をコーヒーに入れている僕を見て彼女は口元をほころばせた。彼女のコーヒーに砂糖は入っていない。男としてなんだか悔しいし恥ずかしいのだが、どうしてもコーヒーだけは苦くて飲めない。 「相変わらず君は子供だねー、そんなんじゃ大学に行ってもモテないぞ?」 「いいんですよ、ほっといてください。別に飲めなくたって大して損はしないと思いますけどね」 高3の冬、僕と彼女は近所の喫茶店で他愛のない会話を繰り返している。決してカップルという訳ではない。訳ではないが、僕は彼女の事が好きである。彼女には毎回会うたび、メールするたび、電話するたびに愛の告白をするのだがキレイにながされてしまう。恐らく彼女は冗談だと思っているのだろう。僕の10年間の思いを…… 「それより先輩はどうなんですか?よく告白されては振っているそうじゃないですか?」 「うげっ、やっぱそういう情報は回るのが早いなー。いやー、ねー」 「なんです……あっ、分かりました。僕の事が好きだから振り続けているんですね。それならそうと言ってくだイテッ…………何するんですか先輩? 」 「君がバカな事を言った自業自得よ。第一、君は子供なのよ。コーヒーすらブラックで飲めない男なんて論外よ、論外」 「うーー、じゃあ僕がコーヒーをブラックで飲めるようになったら付き合ってくださいね? 」 「まぁ、その時は考えてあげるわ。何十年後になるか楽しみだわ」 「待っててくださいね、すぐですから」 その会話を最後に、彼女の声を聞くことは2度となかった。
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