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暗い地下に赤い飛沫が飛ぶ。
男は未だに何をされたのかわかっていないらしい。体に空いた縦穴を必死で塞ごうとしている。
途切れ途切れに男は聞く。
血液が口内を満たす。くそ、喋りにくい。
「西の、者か……目的は……」
途切れ途切れに言葉を重ねる。広がる鉄の味がひどく邪魔くさかった。
だが相手は何も言葉を発しない。
自分の胸を貫いた凶刃を手に、漫然と男を見据えているだけだ。
敵国でなくとも、自分の敵に違いない。
いずれは自国の、東大帝国の敵になる可能性も捨てきれない。
ならば、ここで不安要素を消さねば。
呼吸も荒く、手も震え、視界も霞んでいる。自分で動くのは難しい。
それでも、やらなければ。
震える手で男は腰に提げた剣を掴む。
たとえ刺し違えども、この場で。
なんとか立ち上がったが、しかし流した血が多かったのだろう、男の視界が渦を巻き、歪む。
歪む視界の中で相手の影が揺らいだのは、ちょうど剣を構えたその時だった。
パシャリ、パシャリとゆっくり近づく水音に、緊張と恐怖が男を縛る。
「…………全ては」
声がした。若い──いや、違う。幼さの残る、少女の声。
水音と共に声は自分に近付いてくる。
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