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翌朝、隣にいた筈の従兄弟の姿はどこにもなかった。でも驚くべきはそこではなかった。
昨夜のことを思い出し、俺はみんなに自分の体験を語って聞かせた。でもその直後、誰もが口を揃えて言ったのだ。
「〇×って誰?」と。
昨日まで確かに存在していたのに、みんなでわいわいやっていたのに、従兄弟は今まで存在していたこと自体がなかったように、この世から消え失せていたのだ。
誰に聞いても従兄弟のことなど知らないと言われる。膨大なアルバム写真にも映っていない。
結局、俺の発言の総ては、悪酔いのせいとして片づけられた。…俺もそれを受け入れるしかなかった。
あの夜の、何者かの話し合い。いなくなった従弟。あいつが存在していたことを、俺以外が覚えていないという事実。
…もしかしたら、俺はとても危険なことをしようとしているのかもしれない、でも、確かめずにはいられないんだ。
あの日から集め出した、父方の家系のありとあらゆる伝承や記録。
もしかしたらここに、従兄弟が消滅しても誰もそれを不思議に思わない理由があるのかもしれない。
あの夜、凍える気持ちで聞いていた『血が違う』というセリフ。多分、ルーツは新しくてできた父方の血筋にある。
その謎を解いてみたい。なることなら、今はもう、誰も覚えていない従兄弟の所在を突き止めたい。
その一心で進める研究。…でも研究は慎重に。
多分、原点を解き明かされるのは『あいつら』には都合が悪いことだろう。だから邪魔されないためにも慎重に。
こそこそと集める文献や民間伝承。それを手に入れるたび、俺は、真夜中、枕元で謎の会話が始まらないようにと願っている。
会話…完
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