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だからこそ私は未だに、独身貴族としての道を歩んでいる。
孤高故に狼。
一匹の狼と書いて一匹狼。
それはまるで、私自身の生き方を見越して名付けられた様な....そんな名前であった。
まぁ、それはともあれ今は、そんな事を考えている暇はない。
(試さねばなるまい....タバコが秘めたる未知の可能性と言うヤツを――!)
そう....私は今、正に誰も踏み込んだ事の無い未開の荒野に、足を踏み出そうとしているのだ。
それは正に手探り....。
全てが新しい....まだ見ぬ斬新な感覚への挑戦と、そこに付きまとう無数の危険を伴う経験と言う名の地雷だらけの荒野を、駆け巡らねばならない――。
そんなスリリングな状況が今、目前にある。
久しく....忘れていた感覚――。
ここ数年、完全に忘れていた刺激的な瞬間――。
(面白い........実に面白い。
この私の前に立ちはだかるか、未知なる領域よ!)
私はローズヒップ味のタバコを一服吸い込み、アメリカン・コーヒーを一口流し込むと、嬉しさの余り静かに笑った。
――――――
「お........お母さん、あの叔父ちゃん何か、一人で笑ってるよ?
何か怖い....。」
「そうね幸【さち】――。
でも、人をそんな風に見ちゃ駄目よ?
あの人は、きっと病気なの。
重い重い病気と戦って、苦しい苦しい毎日を過ごしている人なのよ(多分)。
だから、温かく見守ってあげましょう。
見ない事にしてあげる....それが人としての優しさよ幸?」
「うん、分かったよ、お母さん。」
幸は頷きながら微笑んだ。
――――――
(むう....?
コイツは意外だ....斬新な味の響きがある。)
私は新しい味の発見に、思わず微笑む。
だが、少し気になる事がある。
何故だろうか....。
先程から、禁煙席の壁際に座る親子が、私に対して慈しみに満ちた笑顔で笑いかけているのだが....?
私は、そんな事を気にしつつ再び、新しい一本を取り出した。
だが、その直後である。
私と同じく喫煙席ブースに着座する若者二人の行動に私は、思わず目を奪われた。
その若者とは、二十代前半であろう私服の男性二人組。
私が見る限り、恐らく同性カップルと言う事はあるまい。
ならば私が何に目を奪われたのかと言えば、その二人組――その彼等のタバコの吸い方である――。
彼等はタバコを一本取り出し、いきなり鼻の穴に挿入したのだ....。
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