会社帰りのコーヒーショップにて♪

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そして、彼等は御互いのタバコに火をつけつつ、鼻からタバコを吸い始める。 一体、何故――?? 私の脳髄を、疑問符の荒波が駆け巡った。 意味が分からない。 タバコは口から吸うのは当然――。 そんな私の固定観念は、その瞬間、見事に崩壊した。 (まさか........そんな....。 そんな筈はない....。 いや、しかし........まさか、その方が旨いのか??) 普通に考えて、ただの悪ふざけとしか思えない。 だが、もしだ....本当は鼻からタバコを吸って飲むコーヒーの方が旨いとしたら....? (バカな........本当に、そんな事が!?) それは想像すら出来ない未知の領域――。 だが、新たなる発見とは、そんな未知の領域へと足を踏み入れた時にこそ、初めて得られるものであろう。 (やらぬ訳にはいくまい....。 何故なら私は、未知の領域の探求者なのだから――!) 私は華麗に種類の違うタバコを、一本づつ取り出した。 そのタバコとは、バナナ味とカレー味のタバコと言う、斬新な風味のハーモニー。 それらを指先でクルクルと回すと、私は華麗な手付きで両鼻の穴に挿入した。 (さて....後は火をつけるだけだが....?) 私は右手でライターを握り締める。 しかし、流石の私も右手が震えてライターの火が、上手くつけられない。 (ま、まさか、臆していると言うのか....この私が――!?) 無理もない。 私が今、成そうとしている事は目前の若者達すら挑んでいない未開の荒野――。 そんな領域に私は、踏み込もうとしているのだから。 しかし、新たなる発見には、犠牲が付き物である。 そして、そんな犠牲の上に成り立っているのが今の世界だ。 結局、勇気ある誰かが、挑まなければならない。 誰かが、成し遂げなければならないのだ。 ただ....今、私にその機会が回ってきた....それだけの事――。 (ならば、迷う意味などあるまい――!) 私は目にも止まらぬ早業で、タバコへと着火した。 しかし、その直後、カレーの辛味とバナナのまろやかな香りのコラボが、私の脳髄へと襲い掛かる。 「ぐほっ――――!??」 私は余りに強烈な洗礼を受け、思わず咳き込んだ。 だが、本番はこれからである。 私には、まだコーヒーを飲まねばならないと言う使命が、残されているのだから....。 が........そんな私のコーヒーを持つ右手が、小刻みに震える。
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