会社帰りのコーヒーショップにて♪

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無理もない....。 これは未開の荒野を食料も持たずに、さ迷う行為に似ている。 犠牲があって当然の道程だ。 しかし、新たなる発見とは見えない数多くの犠牲の上に成り立っている。 故に私には、引き返すと言う選択肢は有り得ない。 そう....世界が――。 歴史の新たなる1ページが、私にそれを成せと囁きかけるのだ。 つまり....世の流れこそが、私にチャレンジさせる事を選んだのである。 そう........ただ、この瞬間に選ばれたのが私だったと言うだけの事だ。 (最早、迷うまい........。 これを成すは私の使命なのだから――。) 私は両鼻の穴を塞ぐ二本のタバコを押し退け、コーヒーカップを口元へと移動させる。 そして、星々が瞬く意識の中、私はコーヒーを一気に飲み干した。 だが....その直後である。 不意に私の目前に、御花畑が現れたのだ。 (一体、何がどうなっているのだ....??) そよ風が、黄色い名も知らぬ花々をなびかせ....私の心に、優しい息吹が満ちて行く。 (あ........あぁ、美しい....。 疲れた私の心が癒されるようだ――。) 私は心穏やかに、その光景を見詰めていた。 ―――――― 「うへへ........。 うひゃっ........うひゃひゃひゃひゃひゃ....♪ 」 喫煙席に座る中年男性が、いきなり笑いだす。 鼻の穴に2本のタバコを挿入し、口からコーヒーと涎を垂れ流しながら笑い続ける、不気味なる光景――。 「お爺ちゃん....あの人、怖いよ~。」 「大丈夫じゃ、お爺ちゃんが守っちゃる!」 泣きじゃくる可愛い孫の裕太【ゆうた】を、そう慰めるとワシは裕太を座らせたまま席を立った。 頼りない老体ではあるが、ワシは止めねばならない。 あのイカれた若造の暴挙を――。 可愛い孫を守る為に....。 しかし....。 (先程から見ていたが、あの若造の行動はおかしいの....? まさか....何か危ない薬でもやっているのか!?) それが事実なら、ワシは只では済まないだろう。 だが、臆すまい。 何故ならワシは町内会自警老人団・ジジィ・ナイツの副団長・江戸川・藤吉【えどがわ・とうきち】だからである。 こう見えてもワシは既に、3人以上の下着泥を現行犯で、捕まえた事のある百戦錬磨の強者――。
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