三月の蛍

5/12
前へ
/12ページ
次へ
 マグカップを手に取ると、その熱に、指先がじんとする。  もう三月だというのに、今日は本当に冷える。  飲み頃になったコーヒーを、味わいもせず、半分まで一気に流し込む。  もともと、味わう気もなかった。  苦味も酸味も、どうでもいい。  そんなもの、もう感じなくていい。  喉を通り、胃が温められる。  内側からじんわりとする感覚に、溜め息が漏れた。  (こんなぬくもりしか。)  舌に残る安っぽい味が、一層そう思わせた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加