三月の蛍

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 「どうした?」  あんまりな顔をしていたんだろうか。  いつもは向かい合って座っていても何も気づかない人に、何かに気づかれた。  果てしないこの先を思うなら、ここで踏み出せばいい。  けれども。  「寝落ちし掛けてた。」  そんなチャンスも、生かせない。  もう考えるのにも疲れてしまった。  そしてこの諦念は、今の幸せな暮らしを思えば、自分勝手でひどくわがままなものに思えた。  だから、私は壊さない。  私には壊せない。  変えられない。  今の私たちを。
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