ベガ

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ぬるい風がふいた まだ早い時間なのだが侍女に蒲団に押し込まれた 部屋の隅にひとつだけ燭台に細々と火が灯って居るのは来客を待っているから ため息をついて寝返りをうつ 上掛け替わりに掛けている薄手の衣を自分の身体に巻きつける そうすると少し落ち着いた気がした 襖は開け放たれている 川が近いので虫が多い、蚊帳が吊られていて 丸見えにならないように几帳が立ててある 今日何度目かのため息をつく こそこそと何かを話している声が聞こえた 「遅い、遅いですわ、カササギ! 床に就くまでには戻るって言いましたよね?」 衣を頭の上まで引っ張り上げて相手からは顔が見えないようにする 「すみません、織姫さま というか、姫さまが床に就くのがいつもより早いのですよ」 ため息混じりの反論をしたのは待っていた通りの人物だった 「う、る、さ、い! ねえ、私のひーくんは元気だった?どうせ会って来たのでしょう?」 衣を跳ね飛ばし蚊帳の外にいるカササギのところに近づく 「ひーくん? 彦星のことですか? 相変わらず、そんな言葉どこで覚えて来るのでしょう? 困ったお姫さまですね 天帝が嘆かれますよ」 優しく微笑み 持っていた風呂敷包みから畳まれた布のような物を取り出す 「はい」 蚊帳をくぐらせて渡された物はキラキラした丸いものをたくさんつけた布でできた何かだった 「あなたのひーくんからの贈り物ですよ。 キラキラしてあなたを思い出したから、と 彼は元気でしたよ」 「今年は会えなくて残念ですね、来年またお会いしましょう そう言ってました」 受け取ったものを見てまたため息が出た 「あいつ、私を何だと思ってんのかしら? 私は織姫、織女なのよ。なんで布が贈り物なの?馬鹿なの?」 ぶっ、くすくす 私のボヤキはカササギに届いたようだった 押しころした笑い声は私をくすぐった 「私もそう言ったんですけどね」 抑えきれないように笑うカササギ 「あー、そうか。でもどうせだから、と」 なんとなく簡単にやり取りが想像できた気がした ふふふ はっ 息を飲んでカササギが問う 「笑いました? 良かった、笑いましたね。」 「ええ、ひーくんかわってなさそうで、つい。」 「…、 ねえ、カササギ、 彼は、苦しんでない?」 こんな生活にしてしまった私の父や私を怒って無いの? そう聞きたい。 でも言葉にはならなかった
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