彼女が現れるまで

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「崎本でございます」 伊織の母親の、気難しく思える声も、恭一は好きだった。 「こんにちは。恭一です」 一瞬の間があって、伊織の母親は電話口で堪えたようにクスリと笑った。 「恭一さん、伊織はもう出て行きましたよ。まだ着いてないの?」 あの子ったら…と続くが、恭一の耳には最早、聞こえてはいなかった。 伊織は家を出ていて、まだ着いていないのはおかしな時間であるということ。 やはり、伊織の身に何かがあったらしい。 恭一は簡単に挨拶をして、電話を切った。
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