17人が本棚に入れています
本棚に追加
□■□
「いやっしゃいませ。ようこそ当屋敷のお越しくださいました。私執事の田口と申します」
テレビやアニメなどでよく観る、黒のフォーマルスーツに白い蝶ネクタイ。
少し硬そうな短めの黒髪を小奇麗にセットし、少し厳ついがだが確実に男前の部類に入る、身体も大きな彼が腰を深々と屈め挨拶をしてきた。
そんな普段お目にかかることが出来ない、執事な男前を前にしてあたしは見惚れたり目を奪われたりする余裕はあまりなかった。
「はぁはぁ、ど、どうも、溝口晶です」
乱れる息を整えながら、あたしはようやく挨拶を返す。
木々がうっそうと茂る中、延々と続く車一台通れるほどの広さの舗装された道を、ただひたすら歩いてきた。
予想外の距離にあたしはその道が永遠に続くのではないかと、少しばかりお馬鹿な、けれど恐ろしい事を考えながらけれど、無事このお屋敷の中に入る事が出来て、心底ホッとしていた。
て言うかさ、門からこのお屋敷の玄関までさ、どんだけ距離があるっつうのよ!
普通、門入ったら1分以内に建物の中入れるよね?
10分以上かかるってどんだけなのよ、つうか、バイトする前なのに、あたし、もう帰りたいんだけど。
安堵したのも束の間、お屋敷の中入ってあたしは、息を整え冷静な判断が出来る頃になって、初めてこの屋敷の中をじっくりと見て、口をあんぐりと開けてしまった。
え、この屋敷はいったい何?
誰が住んでんだここ?
て言うか、日本ですかここは?
ぐるりと180度見渡した屋敷の中は、完全な洋式で、まず天井が高い。
おまけに、今気づいたんだけど、あたし靴履いたまんまなんですけど。
て、あれって、シャンデリアって奴でしょうか?
うほ、何あの赤い絨毯を敷き詰めた、二階に続く豪華な階段は!
色々突っ込みどころ満載なその内装に、目や魂を奪われつつ、あたしがホケーッとかなりの間抜け面で見つめていたら、遠慮がちに声をかけられた。
最初のコメントを投稿しよう!