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「晶様」
「っ!?あ、はい!」
「そろそろご案内したいのですが、宜しいでしょうか?」
「あ、はい。ごめんなさい、ちょっとびっくりして…」
「いえ。では、こちらへどうぞ」
田口さんはニコリと微笑むと、キレイな仕草で一度あたしに頭を下げてから先を歩き出した。
その仕草にしばし見蕩れて、彼の背中が遠ざかるのにハッと我に返り、取り残されたら大変とアタシは急ぎ足で彼の後に着いて行った。
田口さんに案内されながら屋敷の中を歩く事10分以上。
自分より20センチは高そうな彼の、黒の衣服に包まれた背中を見つめながら、あたしってば本物の執事、初めて見ちゃったかも!と今頃その感動をひしひしと感じたりしていた。
洗練された落ち着いた雰囲気を醸し出した彼の仕草や動きを時折観察しながらも、回りの状況を見ることももちろん忘れない。
ただの廊下だと言うのに壁紙はタペストリーのキレイな模様で、おまけに下はそれと似たような淡い模様の絨毯が敷かれていた。
等間隔にある窓から見えるのは、この屋敷の庭だろう、緑豊かな木々と色とりどりの季節の花々。
だからさ、外も中もどんだけデカイんだよこの屋敷は。
キレイに掃除が行き届いた廊下を、右に左に連れまわされ、今ここから一人で帰れと言われても絶対迷子になる自信があるぞと一人間抜けな事を考えていると、田口さんが急に立ち止まった。
「こちらの部屋が坊ちゃまのお部屋になります」
え、坊ちゃま…て事は相手の子、男の子なの?
と今頃知った馬鹿なあたし。
田口さんは、重厚な白い木製のドアをコンコンとノックしてから「馨様、溝口様がお出でになりました」と中に向かって一言声をかける。
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