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「え? もしかして」
なんだか歴史的発見をした気分だ。
「裕人くん、くすぐったがりなの? 」
脇腹をくすぐろうとしたら彼は全力でディフェンスしてきた。
「ヤメッ、それだけはやめて! 」
裕人くんが焦ってる。彼の弱点なんて初めて見つけた。面白いのでくすぐりたいのだが、所詮力では敵わない。結局向かい合わせのまま、私の両手は後ろ手にされ彼の大きな片手で拘束されてしまう。裕人くんはもう片方の手で私の頭を押さえ私の目を覗き込む。
「いたずらっ子」
両手も頭も押さえられていて、身動きがとれない。少々納得はいっていないけれど……
「ごめんなさい」
と謝った。裕人くんはにっこり笑ってキスをしてから両手と頭を放してくれた。
「でももう見つけちゃったもんね」
と負け惜しみのように言ってみた。手を彼の脇腹の近くへ近づける。それだけで裕人くんは大げさに私をよける。
「ほんとに? そんなに弱いの? 」
なんだか楽しくて嬉しくて子供のようにからかってみる。今日はツートンカラーのカーテンは開けてある。レースのカーテン越しの陽ざしは秋らしい穏やかなものだった。
「あんまりいじめるんなら、俺も地獄の柔軟体操させるよ? 」
裕人くんも少し意地悪な顔をしている。Tシャツにデニムという服装だからか、いじめっ子の顔をしているからか、普段より幼く見える裕人くん。
「じゃあ、ほんとにごめんなさい」
それだけは絶対イヤなので謝った。
「じゃあって何。じゃあって」
そうは言いながらも裕人くんは笑っている。窓から差し込む秋の光が彼の深い瞳ごしにきらめく。まるで綺麗な色付きのガラス瓶ごしに輝く陽の光のよう。まぶしいのは太陽の陽ざしではなく、裕人くん。温かいのも彼の部屋ではなく、裕人くん。その日は筋肉痛になるだけのようなストレッチをさせられたり、ときどき彼をくすぐってからかったり、犬みたいにじゃれながらのひとときを過ごした。
こんな時間がずっと続けばいいのに。今ここで時間が止まってしまえばいいのに。
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