1.1.1 鍵

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1.1.1 鍵

 スカイブルー、ホライズンブルー、セルリアンブルー、コバルトブルー……。空の色を表現するにはさまざまな色の名前が用いられる。一日として同じ色の空色はないし、一日の中でも刻々と色を変える。この空の下では様々な物語が繰り広げられる。これから綴るふたりの物語もそのひとつである。  2011年、この年の日本の夏も暑かった。最高気温の更新や真夏日の連続記録など、毎日のように暑さがニュースになる。そんな真夏の8月が過ぎ、9月になってはいたが、まだまだ暑い夏の気候だった。空の色の名前のようなさわやかな風は吹かず、日本特有のじっとりとした蒸し暑さが日々の生活にまとわりつく。  横浜も例外なくまだ夏のさなかにあった。ここは横浜の住宅街の一角。皆、横浜というと港やみなとみらい、中華街などの観光地を思い浮かべるであろうが、この住宅街までは観光客はやってこない。閑静な住宅街でときおりドラマなどのロケ地にはなることはあるが、それでも観光とは無縁の日本でよく見かけられる住宅街である。その住宅街のマンションのベランダで洗濯物を干している彼女。    真夏の家事中なのでパーマのかかったロングヘアはねじりあげて簡単にアップにしている。今日も暑くなりそうだと容赦なく照り付ける太陽に目を細める。柔らかい雰囲気の女性だ。見惚れるような美人タイプではない。集団にいるとすれば、目立つタイプでもない。けれどもどこか印象に残るのはその彼女の微笑みかもしれない。その優しい笑顔と柔らかい雰囲気が彼女を形作っていた。穏やかな春の陽ざしのような彼女である。
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