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2.3.4 決断
あれから10日間ほど過ぎた。裕人くんとは会っていない。電話もしていない。水曜日のチャットもしなかった。子供達が冬休み中だって会うことはできなかったけど、こっそりチャットはしていたから、こんなに長い期間連絡をとっていなかったのは初めてだ。部屋に行ってもいい日時を確かめる短いメールをしただけだ。
何度も今回の選択でいいのか悩んだ。この選択で正しいのかわからない。高校の問題集の解答例にも答えは載っていない。今回ほどタイムマシンが欲しいと思ったこともない。
未来を覗きたい。この選択でよかったのかどうか。これから彼に話す内容であっているのか。裕人くんが夢を叶えることができているのか。まだ2月で季節も冬だと思っていたが、今日はどうも暖かいようだ。冬の弱い太陽の光も少し春風の力を借りているのだろうか。温かい陽射しに包まれるのも久しぶりの気がする。
着いてしまった。いつもはやる気持ちを押さえながらそれでも平静を装って歩いていた道なのに、今日はアスファルトの道路しか見てこなかった。
「おはよう」
いつも通りの穏やかな笑顔の裕人くん。
「おはよう」
つとめて明るく言ってみる。
この前のようにダイニングの椅子に座る。コーヒーを淹れてくれる。オレンジ色の無地のマグカップ。また両手でマグカップを包み込んで暖をとる。クセみたいなものだ。
「久しぶりだよね」
裕人くんも自分のマグカップにコーヒーを淹れて座る。オレンジ、グリーン、水色、ブラウンの4色のマグカップで、いつも私にはオレンジ色のカップを出してくれる。自分用には残りの3色のどれかを使っている。今日は水色。
「こんなに連絡とらなかったの初めてだったよね」
私もつとめて普通に話す。こんなときでも彼は私を安心させてくれる。
「元気だった? 」
彼が気にかけてくれる。元気? だったのかな。体調は崩していない。心のほうはグラグラだけれど。小さくうん、と頷く。今日の裕人くんの深緑のセーター、とってもよく似合ってる。いつもいつもカッコいい裕人くん。
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