1話

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「花村。おつかれ!ほら。」 上念さんがいつもの屋上で、いつものタイミングで、いつもの笑顔でブラックコーヒーを持ってきてくれた。 「ありがとうございます。」 受け取る私もいつも通り。だけど今日は、ちょっとだけ違う。上念さんに、どうしても伝えたいことがあるのだ。 「よくがんばったな。良いアイディアだったよ。」 上念さんは、私の企画が編集長に褒められたことを、まるで自分のことのように嬉しそうに話していた。 私はそんな彼の雑談を聞きながら、コーヒーの缶のプルトップを開ける。 プシューッと良い音がして、缶コーヒー特有の香りが立ち上った。 それがいつになく、良い香りだったから、上念さんに私がこれから伝えたいことへの勇気がわいてきた。 私はもう、ごまかすのをやめるのだ。 「上念さん、聞いてください。」 「?」 上念さんは真剣な私の表情に気づく。 「私、今までずっと逃げてきました。上念さんに言われたことは、全部あたってました。本当は企画コンペだって参加したかったのに、自分に言い訳して真剣に勝負しようとしなかったのは、コンペに参加することで、自分の大したことない実力を、みんなから評価されるのが怖かったからです。」 「うん。」 「でも、上念さんに励ましてもらって分かったんです。人の顔色ばかりうかがってないで、私だってやりたいことをやってみても良いんだなって。そのためには、ときに人とぶつかる勇気も必要なんだって。」 上念さんは、私の言葉にふわりとほほ笑む。 「花村、成長したね。オレから見たら花村って、真っすぐで何だか、まぶしいよ。」 私は、今なら言える気がした。どうしても伝えたかったこと、上念さんに伝えなきゃ。 「上念さん、まだあるんです。私、ほんとは、本当は……。ブラックコーヒー、苦手なんです。」 「えっ。」
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