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ラーメン屋を出て、マンションへと歩いて帰る道に自動販売機があった。
私はそこで初めて、自分の意志でブラックコーヒーを買った。
眠気覚ましのためだった。
ゴトン、と缶が落ちたのを拾って、プシュッと明け、ゴクゴクッと飲み干し、オエーッと苦さを反芻する。
ブラックコーヒーの強力なカフェインと、昼間上念さんに言われた言葉の数々が私の脳みその中で混ざり合ってエネルギー源になる。
もうひと頑張り、いけそうだ。
私はそんなふうに企画を仕上げ、編集長のもとに提出した。
編集長の意外そうな顔からは、「あの、自己主張のない花村が企画コンペ参加?」という心の声が漏れていたけど、私だってそういう気持ちになることはあるんですよ、と心の声で答えてあげた。
コンペの結果は2週間後。掲示板で発表される。
すぐに待ちに待った結果発表、2週間後がやってきて、社員はみんな掲示板に群がった。
私もみんなの後に続いた。出されている掲示には、『奥村康高「幻のカレーを探す旅」が特集記事に決定しました。』という案内。
残念ながら、私の案は通らなかった。
私は本当に残念で残念で、だけど悔しいと感じている自分に「あれ、自分ってこんなに熱い気持ちをもってたっけ?」とちょっと驚いてもいた。
そのあと、私は編集長に呼ばれた。
編集長はこう言ってくれた。
「花村の企画、けっこう好評でね。今回は残念だったけど、没案にするのはもったいないと思う。よかったら、来月の特別企画としてページ数は半分になるけど、のせてみない?」
そのあとの私の返事は、もう、言うまでもない。
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