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煙草は嫌いだ。
どんなに深い眠りに落ちても、その匂いを感じ取った頭がいつものように僕を目覚めへと導いてゆく。重苦しい目覚めだ。
既に記憶されている筈の匂いの出所を何度でも探ってしまうのは、部屋中に煙のフィルターが視界を遮るくらいに充満しているせいだ。
「おはよう」
朝日が格子の窓から差し込み、傍らに朧気ながら人影が見えてくる。
そこには窓枠に腰掛け、煙草を片手に階下を行き交う人々を眺めている彼女の姿がある。
――japonaisが愛したMINEの香り――いつだったか彼女がそんなことを口にしていたのを覚えている。
外を眺める彼女の表情がどこか儚げに感じられるのは、今でも忘れる事のできない男の姿を追い求めているからなのか。
その男の事を僕は知らない。
――僕は煙草が嫌いだ。
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