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頭が覚醒してくると共に、煙草の匂いは更に僕を締め付けようとしてくるのだが、濃い目に注いだ珈琲の薫りは、そんな僕に一種の潤いをもたらしてくれる精神安定剤のようなものだった。
僕がここに来てからもう何度目かも分からない朝は、日に日に濃くなるその珈琲の味以外は恐ろしいほど同じ光景で退屈だった。
そんな否定的な感情を持ちつつも、なぜこの部屋から出ようとしなかったのか。まるで魔術にでも掛けられたかのように――嫌気がするはずの煙草の香りのある、その日々の繰り返しが心地好いものになっていたからに他ならない。
その日は珍しく、自然と目が覚めた。
微かに漂う薄荷の香り、清々しい目覚めだ。しかしながらそれと同時に、表現しようのない嫌悪感が僕を支配するように身体の中から沸き上がってきた。
――香りが違う。
そう本能が感じたのと、視界に映った光景を頭が理解したのはほぼ同時だった。
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