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男は満足すると、金を置いて帰っていく。
私はただ、汚れた身体を綺麗にすることもなく、天井を眺めるのだ。
「これ、今日の分です」
「これっぽっちかい。もっと稼いできな」
男から貰った金は、全部親へと渡す。
もしもこっそり懐に隠そうものなら、身体中痣だらけにされてしまう。
身売りを始めてからどれくらい経った頃だろうか、一人の男に声をかけた。
「私を買いませんか」
感情なくそう言えば、男は口を少し開けたまま、私を一瞥した。
「おいで」
いつものように男に着いて行くと、そこはいかがわしい店などではなく、小さな喫茶店だった。
なんだろうと思っていると、男は私に向かって椅子に座るよう勧めてきた。
静かな雰囲気の店内に慣れていない私は、あたりをキョロキョロ見渡した。
「コーヒー飲める?」
「え、あ、いえ」
「ラテとかは?」
「ラ、ラテ?」
ほとんど水しか飲ませて貰ってなかった私には、初めて聞く単語だった。
そんな私の反応を見て男は笑った。
「コーヒーとラテひとつずつ」
ラテとはなんだろうと思いながら待っていると、なんだかほのかな甘い匂いを感じた。
自分の前に出されたソレを、緊張の面持ちで手に取り、口に運んだ。
「!・・・美味しい」
「良かった」
久しぶりの温もりに、思わず泣いてしまった。
男は私を慰めてくれた。そして、身売りをしていた理由を聞いてくれた。
正直に話すと、男は私を連れ去ってくれた。
何処をどう走ったのか、今頃親は心配しているかなんて、どうでも良かった。
きっと私なんかいなくても、困りはしないだろう。
いや、困ったとしても、金のことくらいだ。
男の綺麗な金色の髪の毛は、まるで太陽のように光っていた。
「俺はトマ。よろしくね」
「私は、パールです」
そして私達は、結婚をした。
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