第一性【パール】

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「可愛いなぁ」  そんな一時が、幸せだった。  でも、私は以前から知っていた。  トマに、私以外に女がいることくらい。  きっとトマは私が知らないと思っているのだろうけど、女には分かるものよ。  不自然な行動だったり、匂いだったり、ひとつひとつの仕草が私に教えてくれた。  それでも良いと思っていたの。  だって、トマは私の夫であって、この子の父親だから。  彼が“ヴィル”にしようと、考えてくれたこの子の名だって、私は愛していたの。  「ねえヴィル、綺麗な髪ね」  キャッキャッと笑うヴィルの笑顔だけが、私の力になった。  朝早くから出かけて、私達のために働いてきて、空が暗くなると帰ってくる。  最近はヴィルの寝顔しか見ていないと、残念そうにしていた。  毎年毎年、ヴィルや私の誕生日にはプレゼントを用意してくれた。  「ありがとう。忙しいのに、悪いわ」  「いいんだよ。君にはヴィルの世話をまかせっきりだしね」  そう言って、にこりと微笑む彼が好きだった。  嘘じゃないわ。本当よ。  ヴィルが成長して、確か一〇になった頃だろう。  彼の遺伝を確実に受け継いだヴィルは、その金色に輝く髪の毛を靡かせながら、よく走りまわっていた。  私はその髪が羨ましかったけど、ヴィルは私の紫の髪も綺麗だと言ってくれた。  そんな些細な幸せが、いつまでも続けば良いと思っていたの。  「そんな・・・」  愛しのヴィルは、突如病死してしまった。  生まれてすぐにかかった細菌のせいらしいが、話を聞いても良くは分からなかった。  目の前にある、娘の遺体だけが真実味を帯びている。  その時よ。今まで胸の内に隠していた憎悪が、ふつふつとわき上がってきてしまったの。  ヴィルの容体が急変して、私が一人で病院まで運んだ。  すぐにトマにも連絡を取ろうとしたけど、まったく取れなかった。  仕事だから仕方ないとか、忙しいからしょうがないとか。  そんなことをしているうちに、ヴィルは死んでしまったの。  「そうか・・・。そんな時に、俺は。一人で辛い想いをさせたね」  「・・・・・・」  「今日はもう、ゆっくり寝ると良い」  ねえトマ。私、知ってるのよ。  貴方がどんなに素敵な言葉を並べても、どんなに綺麗な笑顔を向けてきても。  それは、虚像であることを。
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