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彼の事は信じたかったの。
でもね、一度だけじゃない過ちを繰り返してる彼を、これ以上信用することなんて、出来ないでしょう?
ヴィルが亡くなってからも変わらなかった彼の行動に、私は何も言えないまま。
ヴィルを失ったこともあって、私は二、三日家を開けることにした。
もちろん、トマも了承してくれた。
「家のことは心配しなくて良いから」
「はい。わがままいって、ごめんなさい」
「いいんだよ。行っておいで」
少しの荷物を持って、私は家を出た。
遠出をするわけでもなく、ただ、家にいたくないという気持ちがあったから。
彼から感じる別の女の匂いも、その女に触れた手で私を触ることも、愛を謳うことも。
パールが家を出てからすぐ、トマは電話をいれた。
誰にかと言うと、あの女にだ。
「ああ、今日明日は確実にいないから、来ると良い」
『あら本当?じゃあ、お言葉に甘えて』
スリットの入ったワンピースを着て訪れたのは、モナファだ。
そして、家に入るなりトマに抱きついてキスをせがんだ。
ベッドに横になると、モナファはトマの耳に口を近づけた。
瞬間、トマはモナファから離れた。
「何言ってるんだ」
「何よ。だから、出来たのよ。私にも。子供が!貴方の子よ!産んでいいわよね?」
「ふざけるな!産むなら勝手に産んで、一人で育てろ」
「どうして?!あの女の時は喜んでたじゃない!」
「相手がお前じゃ話は別だ。ならさっさと帰れ。二度と俺に近づくな」
「なっ・・・!!!」
そう言って、モナファに背を向けたトマ。
モナファの心を支配したのは、愛憎。
唇をぎゅっと噛みしめ、ベッドのシーツを強く掴んだ。
背を向けたままのトマは、パールが作って行ったサンドイッチを頬張っていた。
―殺してやる。
―愛してくれないなら。
―私だけを見てくれないなら。
―殺してやる。
モナファは静かに立ち上がり、護身用にと太ももに隠し持っていたナイフを手に持つ。
―私は、貴方を愛していたの。
―子供が出来れば、貴方が手に入ると思ったの。
―例えそれが、貴方の子じゃなくても。
一歩一歩、近づいていく殺気に、トマもようやく気がついた。
だが、振り向いたときには、遅かった。
「モ、ナ・・・ファ」
「さようなら。私の愛した人」
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