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彼女の家を見つけ、インターフォンを鳴らした。
「はい、どちら様でしょうか。」
とても小さく弱々しい声だった。
「今度美雪さんのマネージャーをすることになりました野崎といいます。ご挨拶に伺いました。」
「ありがとうございます。上がってください。」
そう言われ玄関のドアを開けたとき、見覚えのある顔が目に映った。
「……綾瀬さん?」
「……野崎くん?」
俺は驚いた。よく見たら表札にはきちんと『綾瀬』という字があった。
だけど、あの天才画家『美雪』が、まさか高校のときの同級生の綾瀬さんだなんて。
彼女の家に上がらせてもらい話を聞いた。
「私、あれから画家になったの。高校の頃野崎くんに私が描いた絵を見られてしまったときにね。野崎くんが綺麗だな、なんか元気でた、って言ってくれたの。あのときほんとに嬉しくて、私の絵にそんな力があるなんて思ってもいなかったら。そこから画家を目指して今に至るの。」
意外だった。絵は上手なのは知っていたがまさか画家になっていたなんて。
「同級生だった俺らがまさかこんな形で再開するなんてすごいよね。」
「そうだねー。よろしく、野崎くん。」
「うん、こちらこそ……美雪さん?」
「ふふ…二人の時は美雪じゃなくて綾瀬でいいよ。
」
そう言って彼女は笑った。それは高校時代の無邪気な笑顔とは変わっていなかった。
だけど環境はあの時とは変わっていた。比べ物にならないくらいときは進んでいるのだと実感した。
周りには子供用の服が散らかっていた。
「綾瀬さん、結婚してる?」
「うんん…してないよ。」
「でも…子供いるよね?」
「いるよー、中学一年生の娘が。」
「旦那さんは…」
「いないわ。あの子にお父さんはいないの。」
彼女は悲しそうに笑った。
詳しい話をきくと、彼女は18のときに妊娠したらしい。父親の顔もわからず未婚の母となったそうだ。
彼女にもいろいろあったのだと思っていると
「ただいま……。どちら様ですか?」
「おかえり、波瑠。新しいマネージャーさんよ。」
彼女の子供が帰ってきたようだ。
どうやら名前は波瑠というらしい。
色白で目元がとても彼女に似ている。
「よろしくね。」
「……よろしくお願いします。」
そう言い残して自分の部屋に帰っていった。
これが俺と波瑠が出会った最初の日になる。
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