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大倉夢子(おおくらゆめこ)さんは、子供のころから犬が大好きでした。
どうして、こんなに好きなんだろう?
もしかして、自分はその昔、犬だったのかもしれない・・と思うようになっていました。
道を歩く犬たちに会うと「こんにちは」と声をかけます。
犬の方も、夢子さんに会うと「こんにちは」と返してくれるのです。
他の人にはわかりません。
けれど、夢子さんには犬の話す言葉がなんとなくわかるのでした。
そんなある日のことです。
少し風の強い日でした。
桜の花びらが柔らかな吹雪のように、ひらひらひらと舞い散っていました。
「きれいだなぁ」
思わず手をかざして桜を掴まえようとして、視線をあちこちに投げかけていた時でした。
花びらが舞う隙間から、何かが見えました。
「おや?」
黒くて丸いモノがわさわさと動いています。
よく見たら、小さな黒い仔犬がふるえていました。
「どうしたの?」
夢子さんはしゃがんで、声をかけました。
仔犬は、とても弱っていたので小さな声でこう言いました。
「わからないの。目がさめたら、ここにいたの」
夢子さんのお家のとなりには、小さな公園があります。
公園の入り口に小さなダンボールの箱が置いてありました。
段ボールの中には、桜の花びらがこんもりと積もっていました。
夢子さんは、優しい声で仔犬に聞きました。
「おなか、すいてる? 私のウチに来る?」
仔犬はふるえたまま、力なくうなずきました。
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