『名前の無い唄』

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高校一年生になる渋谷有紗は通学路を自転車で高校に通う。 入学仕立てでまだ慣れておらず家から一本道を選び毎日通っていたが、少しその道から逸れると大きな公園があることに気付く。 ずっと同じ道を通ってては何も発見出来ないということで今朝はその公園内を通って高校に出席した。 帰りも通ってみよう。 中々大きくて清々しい公園だなと思いまだクラブ活動なんかもやってない下校の時間を使い隅々まで探索してみようと思って現在に至る。 公園の入り口を通り過ぎ、広場を見渡すとそこには保育園や幼稚園帰りの子供たちを遊ばせる主婦達の風景や、キャッチボールをして遊ぶ小学生達で活気あふれていた。 広場を繋ぐ通路が二本あり、一本は森のような公園樹が広がる道、もう一本は家の方へ出る見晴らしのよい通路だった。 よし、今日は木のある方へ行こう。 木々が頭上で重なり、まだ夕方前だが、結構暗い。所々光が差し込む隙間がある。 その光が一筋大きく照らす部分にベンチがありそれに近づくと人がいることに気づいた。 段々と近づくに連れ弦楽器の和音が聞こえてくる。 懐かしいような。 それでいて激しく情熱的な。 そんな旋律。 聞く側の五感をくすぐる心地良さ。 こういうの、良いなぁ! 有紗の心はここを通って良かったと弾む。 しかし、10メートルを切った辺りでその音を出す人が酷く薄汚れた服を着ており、無精髭を伸ばしきり、髪の毛がボサボサで、中々近寄り難い雰囲気だと感じ取った。 有紗はその男がギターを弾きながら、ボサボサの髪の合間からこっちを見ているのでは無いかと不安になり、チラリと見る。 間違いない。 予想通りこっちを見ている! ひっ!怖いっ! と近づき過ぎてしまった自転車の右ブレーキを強く握って減速し、通路幅いっぱい男が座るベンチから離れて通り過ぎようとした。
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