0人が本棚に入れています
本棚に追加
自転車の体勢を立て直し、漕ぐためのあしの力を入れなおすと自転車の前についているカゴからコーヒー缶が落ちる。
あー…しまったあ…。
有紗は慌てて自転車をその場に止めコーヒー缶を拾いあげようと手を伸ばす。
「くれないか?」
確かにそう聞こえた。
えっ?
「くれないか?そのコーヒー。喉が渇いているんだ。とっても。」
その声はベンチのギターを持つ男が発したものだ。
ええ…??
有紗「…え…。まあ、いいですけど…。」
厚かましいと感じるよりかは近寄り難いその風貌に怖さを感じたが、よくよく考えると、見た目とは裏腹に太く、それでいて綺麗な声をしているなと瞬時に思った。
男の右手は弦を弾きながらこちらを見ずに左手を差し出す。
この態度には少し厚かましいと感じた。
…私があげるのに…なんだかなぁ…!
自転車から離れ、出来るだけ近づかないようにしコーヒーを持つ右手だけを先に前に出し男にコーヒーを渡す。
有紗カフェオレは好きではなく、微糖のコーヒーが好きで学校帰りに一本高校に入学してから買って帰るのだ。
私の小さな幸せなんだからね!
有紗は声に出さず表情を少しだけ怒り気味にして表現する。
「うん、俺も好きなんだ。微糖。」
最初のコメントを投稿しよう!