第一話 ∞ 若サマは和服男子

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「深紅の京友禅をも圧倒するお顔立ち。まぁなんとお美しいお嬢様でしょう」 私は小さな鳥籠に閉じ込められた、慎ましやかな雛鳥──さぞ可憐に見えることだろう。 本日はお日柄も良く、うららかな春の日も数多の良縁を寿(ことほ)いでいる。四月吉日、都内ホテルのスカイラウンジにて一つ二つお見合いの場が開かれていた。 と言ってもこのお見合いには仲介者がおらず、当事者と片親、計四人のこじんまりとしたもの。 「思わず見惚れてしまいますわ、ねぇ勉(つとむ)ちゃん?」 あくび代わりに天高い青を見上げる。風が強いからか、それとも何かの前触れなのか、綿菓子雲が物凄い速さで流れていた。 ねえ、この胸のざわめきはなんだろう── 「女性に無関心の勉ちゃんが澪(みお)様は一目で気に入りましたの、ねぇ勉ちゃん?」 それにしても〝シャネル・ルージュアリュール99番〟はよく喋ること。 こうしてザマス系のお母様が延々と口を動かしている一方、お相手である勉ちゃんとやらはたまに頷くだけでまだ一言も発してない。 あーこれ絶対「ママが作った甘えんぼカレーでないと僕食べれない」とかぬかしちゃう残念なタイプだ。ママと結婚すればいいと思うよ、お幸せに。 取り急ぎマザコンヤロー無理!
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