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そのまま連れ込まれた課長のマンション。
口づけから逃れようとしたって、あたまをがっちり掴まれてるから逃れることなんて不可能。
重なる唇に、唇を割って入ってくる舌に翻弄されて、私の思考は奪われる。
「緋羽は僕が、嫌いか……?」
不意に、いつもはみせない泣きそうな顔でそんなことを云われると、黙って首を振ってしまう。
結局ベッドの上で散々泣かされ、沈んでいく意識の中で煙草を吸う課長の姿を見ていることになった。
「……おやすみ。
僕の緋羽」
煙草の香りの口づけを最後に、私の意識は闇に飲まれた。
そしてなぜか。
私はいま、課長と差し向かいで朝食をとっている。
作ったのは課長。
しかもいつもの銀縁ハーフリムじゃなく、黒セル眼鏡で前髪を下ろしてるせいか、三十手前の課長がいつもより数段、いや、下手したら大学生でも通じそうなくらい幼く見る。
「なにじろじろ見てるんだ」
「あ、いえ……」
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