302人が本棚に入れています
本棚に追加
「誰が帰っていいと云った?」
「いや、反対になんで帰ったらダメなんでしょうか?」
課長の手には私のバッグ。
人質を取られては帰ろうにも帰れない。
「なぜ帰りたがる?
今日は休みなんだからここにいればいいだろう」
「……なぜここにいなければいけないのかわかりません」
立ち上がった課長が私の前に立つ。
長身の課長に見下ろされてたじろいだ。
そっと課長の手が私の頬にふれ、眼鏡の奥の、細められた目がじっと私を見つめる。
視線を逸らせなくて固まってたら、少しずつ傾きながら課長の顔が近づいてきた。
……あ。
レンズに当たりそうなくらい、睫、長いんだ。
なぜか冷静にそんなことを思っていると、柔らかいそれが私の唇にふれた。
角度を変え、何度も何度もふれる唇に思わず目を閉じ、吐息が漏れる。
開いてしまった口に、進入してきた舌に課長のシャツの胸元を掴んでいた。
口の中に広がる、煙草とコーヒーの混ざった、苦い味。
「……これでわかっただろ?」
最初のコメントを投稿しよう!