課長と煙草と私

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「誰が帰っていいと云った?」 「いや、反対になんで帰ったらダメなんでしょうか?」 課長の手には私のバッグ。 人質を取られては帰ろうにも帰れない。 「なぜ帰りたがる? 今日は休みなんだからここにいればいいだろう」 「……なぜここにいなければいけないのかわかりません」 立ち上がった課長が私の前に立つ。 長身の課長に見下ろされてたじろいだ。 そっと課長の手が私の頬にふれ、眼鏡の奥の、細められた目がじっと私を見つめる。 視線を逸らせなくて固まってたら、少しずつ傾きながら課長の顔が近づいてきた。 ……あ。 レンズに当たりそうなくらい、睫、長いんだ。 なぜか冷静にそんなことを思っていると、柔らかいそれが私の唇にふれた。 角度を変え、何度も何度もふれる唇に思わず目を閉じ、吐息が漏れる。 開いてしまった口に、進入してきた舌に課長のシャツの胸元を掴んでいた。 口の中に広がる、煙草とコーヒーの混ざった、苦い味。 「……これでわかっただろ?」
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