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「界隈」のある場所に女たちが群がっていた。本来なら人気のない場所。だが今夜はそこにある男が現れると彼女たちは知っていた。
『今日こそは乗せてくれるかぇ、はしり屋のだんなは…』
『あんたじゃ無理さ。今宵はあたいが乗せてもらうのさ』
夜のとばりがおりた暗い景色を明るい光が照らしはじめ、女たちの声が甲高く響く。その声をかき消したのは腹にずんと響くようなバイクのエンジン音だった。
バイクは女たちの前で停まり、それを操る男が女たちを一瞥する。
『はしり屋のだんな、今宵はあたいを乗せておくれよ』
女たちは口々に男を誘う言葉を並べる。だが男はバイクを降りると黙って一点を見つめた。
そこにいたのは金の髪の女。サングラスで瞳を隠したその女の存在感は騒いでいる女たちのそれとはまるで違った。彼女が歩いてくると女たちはさっと脇に避けていく。彼女は男の前で立ち止まると静かな声で言った。
『今宵、うちが乗れるのはいつ頃になるかぇ』
男は彼女の瞳を見据え、それに答えた。
『今すぐだ』
女の口角は上がり、妖艶な表情を浮かべていた。
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