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ケンジロウはある場所でくるまを外すとまた夜の闇へと姿を消した。そしてこの「界隈」を見下ろせる場所でバイクを停めた。
『おせぇじゃねーか、ケンジロウ』
長椅子に横たわる男が体を起こしケンジロウに手を振った。男は不敵な笑みを浮かべると近づいてくるケンジロウに手の平を向ける。ケンジロウはその手に自分の手を打ちつけた。
『野暮用でね』
そう呟いたケンジロウの表情に男は気付いていた。
『あのねぇさんと会ってたのか。好きなら受け入れればいい。それだけのことじゃねーか』
『エリーにとってはそれだけのことかもしれんが、俺にとっては違う。「言いなり」と呼ばれてた過去は消えねーよ』
エリーの隣に腰を下ろしたケンジロウは大きなため息を漏らした。
『あの人はおまえを「言いなり」と呼んだ連中じゃねーぇんだろ。同じにされちゃ可哀想だと思うがな…』
エリーの言っていることは分かる。だがケンジロウは考えずにはいられない。もし今の自分が唯一無二の「屋号」を持たない「言いなり」であったなら、彼女は自分を好きだと言っただろうかと…
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