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『こちらへどうぞ』
オミは開かれた扉を潜ると体を一回転させて周りを見渡した。そして視線を前に向けると、その先には二人の女にもたれ掛かられ扇をあおぐ帽子を被った男の姿。男はちらりと片方の女に視線を向け、一言二言囁きを漏らす。その姿からは彼女たちが霞むほどの色気が漂っていた。
オミは男の前まで行くと胡坐をかいて座り、そしてそのまま頭を下げた。
『お久しや、ナオのあにさん』
オミがそう挨拶すると男は顔の前で広げていた扇をすーっと下へ下ろした。広げられた深い朱色の扇の下から紅を塗った唇が現れる。紅く塗られた輪郭は上に向き、その口端を引き上げている。斜めに被った帽子は左目を隠し、残った右目がオミの姿を捉えていた。彼はそのまま扇を揺らし微かに唇を開く。
『あにさんはおかしいだろ。俺は「をんな屋」なんだから…』
くっと笑った男はオミを見つめる。そんな言葉の端にさえ色香が漂う。まさに「をんな屋」の「屋号」が相応しいとオミは思った。
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