第2章

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この「界隈」では権力者の女は「言いなり」を人として見ていない。店での仕打ちを見れば、今までリュウジがどんなに辛い目に遭ったかは聞かなくとも分かる。 リュウジを抱き締めたまま、しばしの時が流れた。ナオトの胸に顔を埋めていたリュウジは彼の心臓の鼓動に耳を澄ませていた。人として扱われてこなかった彼には抱き締められたのも初めての経験。その温もりの心地よさにいつしかリュウジは眠りに落ちていた。 『寝ちまったか』 ナオトはリュウジの顔を覗き込んでそう呟いた。 『あの時、ナオキにもこうしてやればよかったねぇ…』 遠い昔を懐かしむようなナオトの声。その優しげな声がリュウジの耳に届いていることをナオトは気づいていなかった。 目を覚ましたリュウジは部屋の明るさに愕然としていた。寝過ごしたことに対しての仕打ちに体が震えてしまう。だがリュウジは目の前で微笑むナオトの姿に目を奪われていた。 『起きたね』 ナオトは優しい笑みを浮かべていた。 『昨日の…』 『俺は「をんな屋」ナオト。お前の名前は?』 『リュウジ』 ナオトはリュウジに手招きをする。リュウジは躊躇いながら、彼に近づいた。
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