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今までこんな風に自分の気持ちを言葉にしたことがなかったのだろう。
『何か歌えるかい?』
ナオトの言葉にリュウジは驚いていた。
『歌っていいの?』
『歌いたいんだろ?』
『前のだんな様は俺の歌を耳障りだって…』
言いながら涙を堪えるリュウジ。ナオトはリュウジの前に座り直すと手の中の扇を開いて顔の前で揺らす。
『歌ってごらん』
リュウジは立ち上って歌い始めた。真直ぐに胸に響くリュウジの歌声。ナオトは瞳を閉じてその歌声に聴き入った。リュウジが歌い終わるとナオトは扇を閉じて手を叩いていた。
『いい声だよ、リュウジ』
ナオトは立ち上るとふすまに向かって歩みを進める。すっと音を立てずにふすまを開いたナオトはリュウジに言った。
『ここはお前の部屋。好きに使いな』
ナオトが部屋を出ていこうとしたその時、リュウジが大きな声を上げた。
『俺の歌であねさんに舞ってもらいたい』
その言葉にナオトはふふっと笑いを漏らした。
『俺に舞って欲しいなら唯一無二の「うたい屋」になりな。そうしたら考えてやるよ』
ナオトはそう言うと妖しい笑みを残してふすまを閉めた。
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