第2章

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あの頃のことを思いだしてリュウジは口許を緩めた。あの時ナオトに言われ、リュウジは「うたい屋」になると誓った。ナオトに認められるため。ナオトの隣に立っても恥ずかしくない自分になりたいと、心から思ったからだ。 リュウジは目の前で微笑むナオトにある質問をした。それはずっと聞きそびれていたことだった。 『どうしてあの時、あねさんは俺を引き取ってくれたんですか?』 余りに唐突な質問にナオトはくすりと笑った。 『お前、あの時…口をポカンと開けて俺の舞に見入ってた』 『口は開けてない!』 ムキになって言い返すリュウジ。だがナオトは閉じた扇をリュウジの顔に突き付ける。 『いや、開いてたね。俺はしっかり見てたんだ』 『そんなことは…』 次第にリュウジは声のトーンを落としていく。俯いてしまったリュウジの頭を扇でぽんと叩いたナオトは、顔を上げたリュウジに向かってにっこりと微笑んだ。
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