第1章

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「界隈」と呼ばれる街がある。その街は東西の様々な要素を吸収し独自と言える文化を形成していった。 この街では男よりも女の立場が強く、より強い女性たちに街は支配されていた。夜の街ともなれば、悠々と歩く人影は女性ばかり。そして街を守るのも女性の役割とされていた。権力を有する女たちの所有する建物は刀を携えた女性剣士が門を守る。 そんな夜の街を一人の男が歩いていた。男はある建物を見上げるとくすりと笑った。 『今日はここにするか』 男はこれから過ごす時間のことを思い、楽しくて仕方ないと言った顔をする。それはまるで子供のような純粋な笑顔だった。 店に入った男は壁に掛けられた三枚の絵をちらりと見る。花札のタネ札をモチーフに描かれたそれを見て男は呟いた。 『猪鹿蝶…俺の好きな役だ。こいつは縁起がいい』 男は口許を緩めながらカウンターの賭け席に座った。そこに立つ女たちは男を見て美しい顔を歪めた。 『「言いなり」風情が何をしに来たんだい』 『ここをどこだと思ってんだ』 女たちは侮蔑の眼差しを男に向ける。
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