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『あにさまはわたしを許せぬのかもしれぬ。不出来な弟弟子が跡目を継いだのだから…』
ナオキの言葉には自分への苛立ちさえ感じられる。その言葉に込められている想いに皆は気付いていた。
『あにさんは、あねさんが跡目になるべきだったと思ってるんですか?』
『当然だ。あにさま以上に美しく舞う者はおらぬ。あにさまの舞は見る者全てを魅了する。わたしなど足元にも及びはしない』
そう言い切ったナオキの瞳には悲しみの色が浮かんでいた。
『あにさまはわたしを弟と呼んでくれた。覚えの悪いわたしに付き合って、何度も舞を見せてくれた。今のわたしがあるのは全てあにさまのおかげなのだ』
ナオキは遠くを見つめていた。その瞳が見つめているのは、遠い日の自分の姿。
あの日、自分が連れてこられたのはまさにこの場所。神楽堂の舞台の前だった。
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