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だがナオキは母親のそばにいられるだけで良かった。それだけが彼の救いであったのに、母はあっさりと彼を捨てた。
ナオキにとってこれ以上の悲しみはないだろう。ナオトはそんなナオキに何も言ってやれない。ナオトは「言いなり」として扱われたことがないからだ。
彼の母親はナオトを手離すことを拒み、ここを訪れた。権力者の娘であった母親がその選択をすることは勇気のいる決断だった。だが神楽の君は彼女を自分の世話女とすることで二人を守ってくれたのだ。
ナオトは母に愛されて生きてきた。母親が病で亡くなった後は神楽の君の弟子となったため「言いなり」と呼ばれたことはない。
ナオトにはナオキの辛さや苦しみは理解してやれなかった。何も言えない自分がもどかしくて、ナオトはつい声を上げていた。
『あー、もう!』
その声にナオキが体を震わせる。
『いつまで泣いてるつもりだよ』
そう怒鳴るナオトの声がナオキの涙をさらに溢れさせた。
『もう泣くな!』
ナオトに言われてもナオキは泣き止むことはなかった。
『はは様…』
そう呟くナオキの声にナオトまでが泣きそうになってしまう。
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