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だが男は臆することもなく上着の裾を捲ると、手の甲が見えるようにテーブルに置いた。
『これでも?』
彼の手の甲には猪鹿蝶の役札とばくち屋の文字が彫られていた。
『ばくち屋?』
女たちは顔を見合わせると気まずそうに頭を下げた。
『失礼しました。ばくち屋のだんな』
一人の女がカウンターから離れ店の奥へと姿を消した。するとすぐに奥から美しい女性が現れた。
『お待たせいたしやした。わちがこの店の主でござんす。ばくち屋のだんな様にお越しいただけるとは、光栄でござんす』
『そう言うのはいいはからさ、早く札をくれよ』
男はそう言うと舌で唇を舐める。その様に主の横にいた女は軽蔑したような表情を男に向けた。男は女たちのそんな様子さえ楽しんでいるかのように、くすくすと笑いながら手札を操っていた。
『五光』
手札を見せた男はまるで挑発するようににやりと微笑んだ。十回の勝負、すべてに勝った男は鼻で笑うと呟いた。
『この程度かよ。つまんねーな』
男はすらりと細い指で顎をなぞると立ち上がり女たちに背を向けた。
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