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そのまま去っていこうとする男の耳にこんな声が届いた。
『いかさま野郎が…』
男はふっと笑うと振り返り、迷うことなく右側の女の前でテーブルに手を叩きつけた。男の行動に女は怯えたように瞳を泳がせる。男は自分が言ったと知っている。こちらを見ていなかったはずなのに…動揺する女を男はきっと睨みつけた。
『いかさまってのはな、見抜けて初めていかさまになるんだよ。見抜けなきゃ、それはいかさまとはいえねぇ』
男の綺麗な顔が間近にある。だが紡がれた言葉は女を威嚇するような凶暴性を持っていた。男はもう一度女に向かって自分の手の甲を見せつける。
『俺はばくち屋タカノリ。この「界隈」で唯一無二の「屋号」を持つ男だ。それを分かってケンカ売ってんだろうな』
タカノリの啖呵に女の顔が青ざめた。
『ばくち屋のだんな様。部下の不手際は主である、わちの不手際。どうかこの場はわちの顔をたてておくれでないかぇ』
主はテーブルに両手をついて頭を下げていた。その手の下には紙の包み。
タカノリはにやりと笑うとその包みを手の中に入れた。
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