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『主にそう言われちゃ仕方ねぇや』
タカノリはそう言うとテーブルに並べられた花札をさっと一つにまとめてその手に取った。そして不敵な微笑みを浮かべると女たちに背を向ける。去り際、彼はその手の中の花札を宙に舞い上げた。ひらひらと舞い散る札が床に全て落ちる頃、タカノリの姿は店から消えていた。
『ねぇさん、あの野郎このままでいいんですか』
『十回連続で勝つなんて有り得やしませんよ』
男の姿が消えると女たちは口々に不満を漏らす。だが主は口許にキセルを運び、火を点けるとふーっと息を吐いた。
『有り得ねぇさ。だが奴が言っただろ。いかさまってのは、見抜いて初めていかさまになるんだよ。わちらは三人いたのにそれを見抜けなかった。つまり、奴はいかさましていないってことさ』
『でも…』
『黙んな』
主の声は厳しいものになっていた。
『わちはこの生業で身を立て、この店を構えた。そのわちが見抜けなかったんだ。野郎のばくちの腕を認めなきゃ、わちはこの店をたたまなきゃいけなくなる。それでええのかぇ』
『…』
主の言葉に女たちは口を噤んだ。
『ばくち屋…恐ろしい男だよ』
主はそう言うとふーっと白い煙を吐きだした。
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