第1章

5/20

24人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
『主にそう言われちゃ仕方ねぇや』 タカノリはそう言うとテーブルに並べられた花札をさっと一つにまとめてその手に取った。そして不敵な微笑みを浮かべると女たちに背を向ける。去り際、彼はその手の中の花札を宙に舞い上げた。ひらひらと舞い散る札が床に全て落ちる頃、タカノリの姿は店から消えていた。 『ねぇさん、あの野郎このままでいいんですか』 『十回連続で勝つなんて有り得やしませんよ』 男の姿が消えると女たちは口々に不満を漏らす。だが主は口許にキセルを運び、火を点けるとふーっと息を吐いた。 『有り得ねぇさ。だが奴が言っただろ。いかさまってのは、見抜いて初めていかさまになるんだよ。わちらは三人いたのにそれを見抜けなかった。つまり、奴はいかさましていないってことさ』 『でも…』 『黙んな』 主の声は厳しいものになっていた。 『わちはこの生業で身を立て、この店を構えた。そのわちが見抜けなかったんだ。野郎のばくちの腕を認めなきゃ、わちはこの店をたたまなきゃいけなくなる。それでええのかぇ』 『…』 主の言葉に女たちは口を噤んだ。 『ばくち屋…恐ろしい男だよ』 主はそう言うとふーっと白い煙を吐きだした。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加