『臥し待ちの月』

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 チッ、気付かれていたか。ジョンも修羅場を潜ってきただろう、脅しも効かないと予測される。ならば、この硬直状態を崩すのは、何であろうか。 「ジョン……」  説得してみるしかないか。 「愛していますよ、兄さん。二十三年掛かって出した、それが俺の答えです。もう一度兄さんに会えたら、今度は一緒にジュノー家を守ろうと決めていました」  二十三年を出されると、弱い。俺には一週間で、それも仕事だけしていた。亜空間の調査と、五羅(いつら)への援護の方法を考えていた。 「では、貰っていきますよ」  ジョンが、俺の背に手を回すと、軽く抱き込んできた。そこに、飛んで来た戦闘機からロープのようなものが降りてくる。ロープ?戦闘機にロープなのか。  ジョンがロープを握った瞬間、空へと引き上げられた。それも、かなりの加速で、普通の人間ならば、ロープを掴んでいられずに、吹っ飛ばされる。  空に舞うように飛んだ瞬間に、今度は響紀がナイフを投げ、ロープを切っていた。  このロープも特殊なのだろうが、響紀のナイフも特殊であった。響紀は、用途別にナイフを使い分けている。  そんな悠長な説明もできないままに、ロープを切られ、落下が始まる。 「雲の中かな、ここ……」  空中で下を確認して思う。響紀、俺も落ちるという事など忘れている。キレている響紀は、制御が効かない。  俺が空中で、糸を貼り、パラシュート代わりに降下すると、ジョンも俺に抱き付いて一緒に降りた。 「危ないよ、響紀」  ジョンが真面目に、響紀を咎めていた。危ないのは、どっちも同じだろう。戦闘機で空に飛ばすなど、普通はしない。 「まだ、死んでいませんか」  響紀が、ゆっくり歩いて近寄ってくる。響紀の間合いに入ったら、ジョンを戦車の後ろにでも飛ばすしかない。接近戦のプロの響紀は、銃よりも早く、ナイフで相手を仕留めてしまう。  ん?これでは、俺と響紀戦ではないか。  でも、ジョンを殺させるわけにもいかない。おまけに、時季までが近寄ってきていた。これでは、圧倒的にジョンが不利であった。 「ストップ、時季。響紀」  俺がストップをかけているが、二人はキレてしまって、止まりそうにもない。響紀が攻撃してきたので、ジョンを後ろに投げ飛ばす。ジョンはどうにか受け身を取って、後ろに転がっていた。 「時季、戦闘モードを解け」  煙の状態の時季と、戦闘したくない。
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