『臥し待ちの月』

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第一章 仕事探しは前途多難  宇宙で五本指に入る、シークレットサービス及びセキュリティサースの専門集団、鬼城家。鬼城家と言っても、一族という意味ではなく、どちらかと言えば会社名に近い。  鬼城家は、表向きシークレットサービスなどの、護衛を生業としている組織だが、もちろん暗殺もすれば、スパイもする、昔でいう忍者のような組織であった。  鬼城家の仕組みは、完全歩合制で、組と呼ばれるグループ単位に仕事を請け負っていた。鬼城家自体は、全ての組の仕事を仕切る口入屋でもあり、単独の組でもある。  組には決まった形式はなく、会社のような仕組みを持っていたり、チームにしていたりと、様々であった。  鬼城家本部は、江戸のような街並みの、中央に鎮座している城の中にあった。鬼城家の創設者が、宇宙空間や機械ばかりの生活に疲れ、帰って来るなら和風がいいと言ったのがきっかけとされるが、つまりは全てが江戸風になっていた。髪型は普通であるが、着物も多い。長屋のような住居もある。  俺、鬼城 大和(おにしろ やまと)は、鬼城家と血縁関係はないが、鬼城の名前を持つ。組を造る際に、鬼城の名前を持つ者が、一人以上存在しなくてはならないという規定があり、俺は鬼城の養子という立場になっていた。元の名前は火の屋という。  火の屋は殺し屋の一族であるので、確かに鬼城も、俺を預かった時に、火の屋と名乗らせるわけにもいかなかったのだろう。  俺は、殺し屋である父、火の屋と、武器商人である母、ジュノー家の血をひき、どちらの家からも跡取りとして認められず、抹殺指示を出された後に、鬼城の頭領が預かった。預かってくれた理由は、鬼城の頭領が、両親の親友だったのだそうだ。  鬼城家の城(本家とか母屋と呼ぶ人も多い)の一階に口入屋がある。仕事斡旋所のようなものだ。  俺は仕事を請け負う為に、鬼城本家に来ていた。  口入屋、そこで仕事を選ぶのだが、あまりいいものは期待できない。実績があれば、直に依頼が行く制度があるせいで、他で断られた仕事のみが、口入屋にやってくる。  それでも、仕事欲しさなのか、口入屋には常に人が多かった。  人ごみを掻き分けて、やっと最前列に行ったが、掲示板に、数枚の紙が貼られているだけであった。  口入屋の仕事は、レトロな掲示板に貼られている紙を受け付けに持ってゆき、手続きをする。
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