『臥し待ちの月』

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 わざと亜空間があると知らせ、そこの警備が薄いと情報を流し、攻撃してきた所を一気に叩く。でも、あまりに、場当たり的のような、計算高いような、妙な計画であった。 「とりあえず。桜川に罵倒」 「しておいたよ」  にっこり笑う時季は、操縦を自動にしていた。 「さてと、これでゆっくりできますよね」  コクピットでするのか?少なくとも、覗きのできる亜空間は全て閉じよう。そう思って亜空間を確認して、又、高麗を見つけた。  今現在の高麗の姿なのだろうか、うつ伏せの状態で桜川が上にいる。桜川のボディは、亜空間の中に存在していた。高麗を抱いているのは、桜川という機械であるのかもしれない。計測器の塊で、高麗の動きや体温、圧力、全てを数値で残してゆく。  手や足の状態、内臓の温度、数字の高麗はどこか悲しい。これが、愛なのだろうか。  俺の後ろから、時季が抱き込み、同じ映像を見ていた。時季が俺の頭を撫ぜて、後ろに座った。 「映像は全て、当麻に渡しています」 「数値も渡さないと意味がないよ」  それは、高麗が壊れてゆくような、数字の羅列であった。桜川が見ている高麗は、この数字の羅列であり、その移り変わりなのだ。  高麗は、機械の半分を外され、新しいナノマシンを与えられた。ナノマシンは、DNAが組み込まれ、高麗の一部に形を変えていった。それは、生きた機械であった。表面の皮膚は生身のもので、神経も生身であった。  そして第二段階、ナノマシンは生身と融合して乗っ取りを始めていた。血液の中に、心臓に入り、その一部と化す。  高麗は、本当の意味で機械とのハーフになってしまっていた。その機械が、感じるということが、桜川には歓びなのかもしれない。機械には感じるという機能はないが、高麗は毎日、しかも長時間、桜川に抱かれていたことで、ナノマシンに重要な機能として組み込まれたのだ。 「俺は、あれこれ間違えた。高麗を桜川に渡してはいけなかった」  すごく、泣けてくる。高麗は、俺の大事な仲間で、人間であったのだ。 「俺は、銀狐からも高麗を奪ってしまったのだろうか……」 「泣くな、大和。高麗を助けよう。半分機械は、元々だろ。恋に痛みは付き物だからと、笑って言える日がくるように」
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