『臥し待ちの月』

46/75
前へ
/76ページ
次へ
 ウナギの味も無くなりそうであった。鬼城の寿命というのは、何歳であっただろうか。シェリエは長生きなので、他の種族の寿命を忘れてしまう。シェリエも本来は、ゆるやかな時間の中で生きている。 「大和、五羅を頼むよ。鬼城はな、同性婚も認めているからな。生涯の相棒でいてやってくれ」  どう解釈したら良いのであろう。鬼城が、同性婚を認めていたとは知らなかった。もしかして、鬼城は認めていても、鬼城家は認めていないのではないのか。 「時季、もしそうなっても、恨まずに、大和と五羅を頼む」  時季は微妙な表情をしていた。  一羅は、やるよと言って、手をつけていなかったウナギをくれた。そして、勘定を払うと帰って行った。 「シェリエは長生きだけど、呼吸も少なく、というか、していない時の方が多いし、省エネだよね」  そう言って、ウナギは時季が食べていた。そこで、シェリエが出てくるのが不思議だ。 「時季のシェリエの情報源は、当麻か?」 「そう。よく知っておけって、響紀も学んでいるよ。扱い方や、管理方法、抱き方とかね」  そんなものを学んでいたのか。まるで、ペットを飼っているようだ。 「時季……あのな」 「俺の最高で最強の宝物だからね」  ウナギを食べながら、キスしないで欲しい。ウナギの味がしたキスになっていた。どこかで、山椒の匂いも漂う。  けれど、一羅も亜空間経由で五羅に辿り着く方法を考えていたのか。  ウナギを食べてから、歩いて鬼同丸に向かった。この道は、夕日に向かっている。  正面に大きな夕日があった。こうやって、昔も仕事が終わると、よく一緒に帰った。 「大和、鬼城の呼び出しは、通信で済む内容だったような気もする」  そうでなければ、まるで、一羅が別れを告げに、俺を呼んだ気もした。一羅を、孝太郎の元に行かせるわけにもいかない。 「親父に連絡を取ってみるよ。一羅は鬼城に必要だからね」  親父もゲートキーパーなので、何とかしてくれるかもしれない。 「一羅さんは、本当に凄い人だよね」  山から鬼城の町を見る。ここが平和で、皆が仕事をしているということが、一羅の実力であるのだ。誰も、鬼城家のある、この星に攻め入ろうとはしない。 「……失えないよね……」  一羅を、孝太郎の元へは行かせない。  鬼同丸に到着すると、伊万里が準備を終了していた。  伊万里は、荷物を纏め、玄関先で待っていた。しかし、他に数名の姿も見える。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加