『臥し待ちの月』

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「……伊万里、その方々は何?」 「新人だけどね、今回の仕事は、結構長期戦だろう。しかも、亜空間が使えるからね、少し教えようかと思ってね」  こんなに新人がいたのか。一羅の言う通りに、他の仕事も引き受けないと、皆の生活費が捻出できないかもしれない。 「まあいいか。行こう」  百武が戻る時に、チームを再編成しよう。  宇宙船に乗り込むと、エンジンをかける。そこで、悲鳴があがったので、つい次の稼働のタイミングがずれてしまった。 「何?」 「どうも、生まれて初めて宇宙空間に出る新人がいる」  時季も、後ろが気になっていた。大丈夫なのかと思いつつも、乗せてしまっていたので、船を出発させた。  高速で飛んでいるので、三日で到着するだろう。自動操縦に切り変えると、コクピットで仮眠を取ることにした。コクピット以外は、新人がうるさいのだ。 「腕枕しようか?大和」 「結構!」  操縦席で仮眠する。誤って機器に当たることもあるが、自動のスイッチを切らなければどうにかなる。  仮眠していると、コクピットに誰か入って来た。殺意があれば目も開くが、どうも、ただ入り込んだだけらしい。 「やっぱり、かっこいいよね。俺達と、ほぼ同じ年なのにS級だし。もう、おなじ組というだけで、自慢だよね」  新人は、組に入っているとはいわない。 「近くで見ても凄いよ。綺麗。いつも、画像でしか見ていなかったしね」 「そうそう、鬼同丸でも近寄れないし。道でも俺達はその他大勢だし」  更に近寄って来ようとするので、目を開きかけると、先に時季が起き上がった。 「勝手にコクピットに入るな……一人だったか?」  一人?今、一人だったか?複数人の気配がしていた。  俺も起き上がって見てみると、一人しかいなかった。しかし、その一人は、ニコニコと俺を見ていた。 「頭領代行ですよね。俺は、心吾(しんご)です。一人ではありません、亜空間の事故で複数人が一人に集約されたのです」  それはあり得ないと言いたいが、目で確認しても、姿は一人でも、気配は複数いる。 「複数人とは、具体的に何人だ?」 「大人五名、子供三名、犬二匹(チワワとドーベルマン)。鳥一羽(フクロウ)、それに猫(ジャガー)です、大人一名は妊娠中でした」  ジャガーは猫だったのか。  亜空間の事故、乗っていた小型船が、遭難してしまったのだそうだ。 「妙な存在だよね」
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