『臥し待ちの月』

49/75
前へ
/76ページ
次へ
 可能性は分かったが、三日は短い期間であって、今は眠りたい。俺は一週間程度は眠らなくても、呼吸をしなくても平気だったが、既に一週間を越え眠っていないのだ。 「手を握っていますので、眠ってください」  手を握るな。しかし、手を握られると、睡魔に負けていた。  夢なのか亜空間か分からない場所で、俺は、胡坐をかいて座っていた。  高麗の映像が、空中でテレビの画面のように光り、幾つも飛んでいた。どうやって、高麗に鬼城を抜けろと説明したらよいのか。他に、銀狐にどう謝罪をしよう。 『大丈夫ですよ大和さん。俺が銀狐に説明しました。それに、辞めると伝えてあります』  俺の都合の良い夢であった。高麗の声が聞こえていた。 『それと亜空間の映像は、消して欲しいです。俺、死ぬほど恥ずかしいです』  初体験から、試行錯誤し、慣れるまでの記録であった。 「高麗、鬼同丸に帰ってきてよ」 『そうしたいですが、俺の体が、半分機械なのです。安定していなくて、電気信号を与えないと、溶けて消えます』  溶ける?雪だるまみたいな存在であった。 「もしかして、桜川の機械のボディは電気信号が出るのか?」 『そうです』  騙されているのではないのか。そうやって、桜川は、高麗が逃げられないようにしているとも考えられる。 『それに俺は桜川さんを愛しています』  これ以上は言えない。  夢かと思っていたら、眠ったまま通信していたらしい。亜空間を通じて、S級に配信していた。  目が覚めると、あと少しで桜川の星に到着というところであった。心吾は食事のために、部屋に戻っているという。 「伊万里」  コクピットから出て、伊万里を探してみた。 「何ですか?」  伊万里は、五羅に付いてきた一人で、古参になる。 「心吾に亜空間への、出入りを教えてやって欲しい。あれは中で何かを持ってくるよ」 「分かりました」  伊万里は、苦笑いしていた。そう言えば、俺は伊万里に無理ばかり頼んでいる。亜空間へは、保管と取り出しが基本なので、出入りは高度なテクニックとなっていた。 「多分、心吾は、孝太郎から、五羅のいる亜空間を奪える」  伊万里の顔から、笑いが消えていた。 「了解」  伊万里も五羅の事となると、本気になる。そもそも、伊万里も五羅に本気で惚れ込んで付いてきたのだろう。 「ソニアに帰艦する」  俺はコクピットに戻り操縦桿を握る、自動操縦を切ると、ソニアに入って行った。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加